あくあん's blog

つらつらと書きます。最近はカメラの話。書評やガジェットの話なども。

情報サービスを深掘りしてみる

私たちの周りには情報サービスがいっぱいあります。電気通信を利用してコミュニケーションを可能にするだけでなく、チケット予約や決済、音楽などのストリーミング、道案内などなど。情報技術やサービスは非常に便利で様々なことができますが、複雑すぎるゆえにその実態、本質がうまく掴めないことがあります。今回の記事ではそのような情報サービスをどうやって見るか私なりに考察したいと思います。

 

形態と機能に分解する

情報サービスは多くの場合、物理的な実体がなかったり、物理的実体を持っていてもアナログなそれとは異なったりしています。たとえば電子メールとハガキなどの手紙を比較してみると、前者はスマートフォンなどの情報処理端末内のアプリケーションなどで作成され、サーバなどさまざまな機器を経由し相手方に届きます。一方後者は何らかの紙媒体などに通信内容を記述し、郵便局などの通信サービスを通して相手方との通信を成立させます(通信というと違和感あるかもしれませんが、電気通信よりも広い意味で通信という言葉を使っています)。

それぞれ異なる複数の実体やサービスを利用していますが、一方で実現している機能は相手方に情報を伝達するという同一の機能です(その他の付随機能については後で話します)。つまり、似たようなものを考えるときに事物を形態(実体)と機能について分けると、サービスの本質的な部分が見えてきます。

なのでまずは簡単に、事物を形態(実体)と機能に分けて考えましょう。そしてそれぞれについて考察してみます。

 

機能の第1要件と第2要件

まず機能について見てみましょう。機能とは「実際に目的に資する、機能を持つものがやること」みたいなイメージです。鉛筆は紙(などの媒体)の上に視覚化を施す機能を持ち、消しゴムなら紙などに書かれた筆跡を消去する機能を持ちます。私たちがものを買うときや使うとき、本来求めているのはおおよそ機能のほうです。鉛筆を書くためではなく持つためだけに買うことは稀でしょう?

 

機能はさらに2つに分かれます。機能要件と非機能要件とか、第1、第2要件とか必須と任意なんて言われたりもします。ここではわかりやすさから第1、第2と呼びます。1つめは必ずなければならない機能で、バッグならものを収納する機能、靴なら足を包む機能、カメラなら静止画を撮る機能などが該当するでしょう。当然この機能がなければ製品/サービスとして成り立たないので、こちらは必須のものとなります。一方、2つ目の機能はあってもなくてもいいけど、あったら嬉しいなという感じの機能です。バッグならオシャレとか丈夫とか耐水性などでしょう。カメラなら持ちやすさとかSDカードなどストレージ拡張性とかですかね。一般に、2つ目の機能がその製品/サービスの価値を上昇/差別化すると言われています。第1の機能がなってないサービスとかは論外ですが、第2の機能はサービスによって様々だからです。(セキュリティがなってないけどきちんと使える決済サービスと、セキュリティがきちんとしてる上にきちんと使える決済サービスなら後者を取るでしょう?)

 

形態の特徴を考える

さて、形態の話です。こちらは人間(ユーザ)との接点として機能を表現する役割を持ち、設計・製造・管理の全プロセスに影響を与えます。それぞれ考えていきましょう。

 

人間との接点について。これはユーザに使ってもらえるかどうかを決定づける大きな因子で、いわゆるインターフェースというものです。インターフェースは機能を実現することでユーザと機能を橋渡しします。人間との相互作用をする唯一の場所なので、ここを上手く設計できないとなかなか受け入れられないものになってしまいます。

具体例としては、インクが出ないボールペンや、固まるゲームアプリ、収納容量がないバッグ、正しい時刻を表示しない時計などが挙げられるでしょう。どれも機能の第1要件(書く、楽しむ、収納する、時間を確認する)を適切に実現していません。さらにそれ以外にも、第2要件の中で重要なものを欠くと、受け入れられにくいものになるでしょう。持ちにくいボールペン、ゲーム開始のアイコンがどこかわからないアプリ、開けにくいバッグ、文字盤が見づらい時計など。機能を表現・実現するのは形態の方なので、こちらを受け入れられやすく設計しないとせっかくの機能も使われずに終わってしまいます。

ここまで書くとわかると思いますが、この先はUIの話に接続していきます。第1機能を踏まえた上でどのように上手く他の機能を持つように形態を設計するかがデザイナーの任務なのでしょう。ここではUIなどには詳しく突っ込まず、形態とはどんなものなのかだけ話をして終わります。

 

余談ですが、「こんな機能が欲しいんだよな〜」みたいな言い方って大体において形態の話をしています。ここに戻るボタンつけたら便利じゃない?とか、この服のこの部分にポケットがついてたらよくない?など。これらはただの機能表現手段に言及しているだけなので、もしかしたら別の表現手段があるかもしれないという認識を持たないといけません(もっとも、ポケットの代替となる機能ってなかなか難しそうですが...)。

 

情報サービスを考える -まず簡単に-

では情報サービスにおける形態と機能ってなんでしょう?情報サービスと一口に言っても、前述した通り音楽や予約サービスなど様々なものがあります。その中で共通することは?そもそも共通するものがあるのか?色々考えると...?

 

まずハードウェアの面から見ると、ソフトウェア上でアプリケーションに入力する、実行する(そのための準備も含む)・実行結果を表示するなどの機能を持ち、ディスプレイやキーボード、ディスク、センサーなどがそれを実現する形態を持つといっていいでしょう。ハードウェアに関しては確かに情報技術を実現する手段ではありますが、今回の議論とはちょこっと方向性が違うのでこのくらいにします。ハードウェアの議論では上にあげた機能をより(量的にもしくは質的に)向上させる、などの方向性になります。この辺りは別の機会に書けたらいいなぁ...

 

ソフトウェア的な議論で行くと、アプリそのものやアプリのデザインなどは形態とみていいでしょう。物理的なものではありませんが、アプリの内容(機能)を実現しているものとして形態と言えます。では機能は?機能はアプリケーションによって達成されるものです。道案内なら「利用者が目的の場所に移動できるように情報を取得する」、予約サービスなら「指定日時にある場所であるサービス(食事や映画など)を受けられるようにする」などが機能として定義できるでしょう。Twitterユーザーはあの青い鳥のアイコンにはあまり興味なくても、そのアプリの中で実現されるコミュニケーション(?)の機能を求めているわけですね。

 

もうちょっと深く考えてみる

情報サービスって色々できるし、道案内や予約サービスの機能を個別に書き下したからといって情報サービスの全体像がつかめるわけではありません。なので、もうちょっと深く情報理論や通信といったところから考えてみましょう。

情報とは何か?といったとき、端的に言えば情報量理論に基づくビット表示で様々なものを数値的に表現したものです。この技術によって世の中の様々なものが数学的に表現され、コンピュータの中で表現できるようになりました。そして、ビット表示の元々の背景でもある通信がコンピュータによって実現され、コンピュータ上で任意のクライアント間の「情報」の伝達が可能になったわけです。

つまるところ情報技術の中核は、表現と通信工学に基づく情報の伝達になります。それを取り囲むように入出力システム、オペレーティングシステム、信頼性技術、分散技術などの基幹が存在し、その上に応用として制御工学やデータベース工学、グラフィックスなどの話が存在します。また、表現論としてアルゴリズムや言語、離散数学など、効率的設計、効率的表現手段、インターフェースとしてハードウェア方面の工学などもあるでしょう。もちろんレイヤ間の抽象化などがある程度うまく効いているので、全部を知る必要はないんだと思いますが...(コンピュータサイエンスの全ての分野に精通してたらそれはとてもすごいことだとは思いますが)

 

「情報を伝達する」という第1機能と、容易に追加できる第2機能

ともかくこのように考えると、情報技術を用いた情報サービスの(第1)機能は、根本的にはどれも「情報を伝達する」という機能に還元できるはずです。道案内なら「ユーザの位置情報をサーバ側に伝達し」「サーバ側からそれに基づいた経路が伝達される」(道案内の経路計算とかは端末ベースなのかどうかは知りませんが)などで、予約サービスなら「予約すべき場所や空席数などの情報をユーザ側に伝達し」「伝達された情報をもとに予約先に予約された情報を伝達し」「受理結果をユーザ側に伝達する」などでしょう。つまり、「サーバとユーザの間で情報を伝達する」ことを応用していくと情報サービスになる、ということですね。音楽ストリーミングやカレンダー、決済、勤怠システムなども、見た目は異なっていても情報をある場所から別の場所へ移動する/保管するなどのことをしているわけです。

 

そして、ここからが情報技術「らしい」ところですが、ソフトウェアはコードを追加することで第2機能を拡張することができます(例えば椅子などは機能を追加しづらいですよね)。当然ながらサービスリリース後は追加可能な機能は限られてきますが、設計段階では様々な第2機能を組み込むことができるわけです。電子メールだったら送信時刻指定、タグ付け、メール本文の検索など、相手とのやりとり(第1機能)だけでない様々な機能を利用することができます。情報サービスでは本来の目的機能ではない、それぞれ別の機能を提供するアプリ間の連携や音声や振動などによる視覚表示だけでない情報表現機能など、多岐にわたる補助的な機能を(便利なように設計する範囲で)選択して設計することができます。サービス設計においてはこの第2機能がサービス体験全体の印象を大きく左右するので、こと情報サービスでは設計要素として欠かせない考慮事項になるわけです。

 

余談

 とまあこれで記事に書きたいことはある程度書けたのですが、最後にいくつか続く話としてお金の話、法律の話などをします。

 

お金の話というかキャッシュレスの話になるのですが、なぜお金と情報サービスがこれほどまで親和性がいいかを考えてみます。

お金って元々は、金(きん、Gold)という形態そのものが価値という機能を付随的に持っていたからこそ、交換手段として様々な場所・場面で使われていました(金本位制)。それが管理通貨制度へ移行したことにより、形態自体にはほとんど価値がない紙や金属のお金が普及するようになりました。お金の機能自体は今も昔も変わりませんが、形態は紙幣や硬貨である必然性がなくなってしまいました。

それであれば(十分な信頼性などが担保された上で)お金を情報として表現し、形態を情報端末や処理端末(カードなど)の中のアプリケーションとして実現させ、交換手段として機能させれば、追跡性や管理性などの第2機能を追加しやすいより便利な形態になります。おそらくこれがキャッシュレスの起源、お金と情報サービスの親和性の高さの原因でしょう。同じことがチケットなどにも言えるでしょう(手形の派生形ですね)。

 

もう一つの話は法律です。法律って何なのでしょう。

法律はいわば世の中をうまく回す仕組みで、法律の目標はその「うまく回す」ことでしょう。憲法民法、刑法など法律が各々担当する範囲で、法律が目指す価値を実現するためにうまく回すための機能を設定しています。しかし、法律はあくまでメタ的に「機能を設定する」機能を持つだけで、それを表現し実行するのは国会、立法府、裁判所、警察、消防、自治体、各私人などになっています。

となると、機能設定のための機能を持つことは分かったものの、形態が見えてきません。法律の形態って何でしょう?

 

私は条文そのものだと考えています。条文が機能表現のための形態になっている、ということです。条文さえあれば法律は形作られるとすれば、一般的にはその存在は紙でも石碑でもHTML形式でも構わないわけです。

しかし、こう考えると法律って実は、プログラミング言語に似てませんか?開発者から見ればソースファイルの機能を表現する形態は何行にも渡るコードに他なりません。厳密性などは自然言語人工言語の違いがあるので一概に同じとは言えませんが、機能表現手段として両者は似通っていますね。

 

参考