あくあん's blog

つらつらと書きます。最近はカメラの話。書評やガジェットの話なども。

書評:データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

どうもこんにちは、あくあんです。早いもので、2021年も2ヶ月が過ぎてしまいました。

今日もモーニングティーを飲みながら、先ほど読み終わった「データの見えざる手」という書籍について感想をちまちまと書いていこうと思います。

先に言っておきますと、この本、めっちゃオススメです。

 

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この本の趣旨としては、副題にある通り、ウェアラブルセンサはじめとしたリアルタイムデータ収集ツールを利用することで、人間行動や社会の特性を統計的に理解しようという試みについて述べるものです。人間の(コントロールできると思っている)時間、ハピネス、運といったトピックについて、各種研究から得られたデータやその考察を通して、人間や人間社会の裏に存在すると思われる「人間行動の支配方程式」を垣間見ていく、という非常にスリリングな内容となっています。

 

この著者の人、日立研究所のトップらしいのですが、IEEE Fellowなど多数のすごい役職を兼任していたり、多数の国際的な賞を取ったりなど、すごい(語彙力)としか言いようがない人です。マジすごい。

研究者らしく、各章もIMRDの流れがなんとなく見える上、文体も非常に平易で、比喩表現やアナロジーなども的をいたものとなっており、大変読みやすいです。すごい(語彙力)。

 

詳しい内容については各位に読んでいただきたいので言及しませんが、特に興味をそそられた内容を箇条書きで紹介します。

・人間の活動量は統計力学的に解釈できる

・仕事での活発さが幸福感につながる

・購買活動や仕事での「気持ち」は、個人が制御できるものではなく、個人がいる場に左右される

・AIの提案した売り場改善策は、専門家でも理由がわからないが、専門家でも為し得ないほどの売上改善につながる

こうやって書くと怪しい本な感じが出てしまいますが、これらの内容について、データ取得と解析を通して明快な分析がなされています。めっちゃ面白いです。

 

全体に横たわっている前提として、「大量のデータはなんらかの科学的知見を得るためのキーになる」という考え方があり、それは歴史が証明していることを、この本の中でもエピソードを引用することで紹介しています。この部分もこの著者の科学に対する造詣の深さに感銘を受ける内容です。

"月とリンゴは、天体と果物という全く違うジャンルのものだった。この両者に統一法則を見つけたのがニュートンの偉業だ。月とリンゴには見かけの違いを越えて、同じ運動法則が成り立っていたわけだ。異質でばらばらであることと統一的な法則に従うことは矛盾しない。"

"人間や社会についても、方程式のこのような特徴をうまく使えば、多様な社会の現実と矛盾しない形で、統一法則が見つけられるかもしれない。"

(「集中」という計測量を導入することについて、感覚は人によって違うことを踏まえながら)"しかし、計測量は感覚より客観的で、よりしっかりした根拠と基盤を持ちうる。感覚と異なり、大量に記録でき、参照でき、その変化や法則性を数学的に表現できる。"

 

最終的には、大量のデータから法則を導き出す人工知能(特に深層学習)について、コンピュータが人間活動をサポート・増強する可能性を述べつつ、その事例なども紹介しています。いわゆる昨今の人工知能ブームよりはるか前の2014年時点で、このような分量・高い質の本を書かれるというだけで、もう唖然とするばかり...

 

最近、情報サービスとの関係において、人間を考察し攻略する(ハックする)対象として考えることにハマっているのもあり、人間行動を科学するという方向性の論議は大変参考になりました。私としては、これに加えて大学の時に興味を持ったのが社会現象の法則化という分野だったのもあり、この本の内容はドンピシャでした。統計力学行動経済学、心理学に興味ある方もきっと楽しめるかと思います。

 

ちなみにこの本、ブックオフで220円で買いました。大当たりすぎてびっくり。5,000円とか出しても十分に納得できる内容です(なら今からちゃんと新しいものを買えという話ですが)

あと、この本は徹底してカタカナ語末尾の長音記号を省略してて面白いです。コンピュータとかセンサならわかるけど、ホームセンタとかコールセンタとかスーパーバイザとか、そこまでしなくてもいいでしょ...